【ビジネス書012】 

2018年 7月 14日(金)

この本のことは新聞広告で知りました。著者はコンサルティング会社の社長です。

新聞でコンサルティング会社の広告を目にするのは、セミナーの開催通知あるいはプロモーションの一環として出版される書籍のケースが殆どです。しかも日経でよく目にしますが、それ以外の新聞では、一部の書籍を除き、コンサルティング会社の広告を目にすることが殆どありません。

朝日、讀賣、産経など全国紙の広告で目に入ってくるのは、健食、化粧品、保険などの通販商品ばかりです。これは10年、15年前から何も変わっていません。

私の記憶・記録では、今年に入ってから日経新聞に最も積極的に広告を出していると思われるコンサルティング会社が、この本の著者が経営する会社です。高額な全5段広告を繰り返し何度も出しているのです。そのようなこともあり、気になったので、立ち読みでさっと済ませるのではなく、実際に購入して全ページを読んでみました。

AIに振り回される社長 したたかに使う社長」というタイトルの通り、社長向けの本ですが、難しいことは書かれていません。容易に理解できる内容ばかりです。

少し勉強しているビジネスマンには周知の内容が殆どではないでしょうか? 

このコラムでも紹介したコトラー氏の「コトラー マーケティングの未来と日本」や三枝氏の「ザ・会社改造 340人からグローバル1万人企業へ」の本などとは明らかに異なります。

またAIという表現がタイトルに含まれていますが、AIに関する難しい話はありません。注目のキーワードを上手く書籍のタイトルに含めたなという感じです。

また「一流の男は…、二流の男は…」などと同じ手法で、「振り回される社長、したたかに使う社長」と対比させています。そこに今注目のAIという言葉を入れており、集客面をよく考えたタイトルだなと感心しました。

多分、「フィードフォワード経営」をタイトルにしたら「何だ、それは?」と思われるだけだったでしょう。

では、何が書かれている本かと言うと、「フィードフォワード経営」についてです。これについては、本の中にフィードバックとの比較説明があります。フィードバックは良かった・悪かったなどと「過去の振り返り」である一方、フィードフォワ―ドは「未来へのアドバイス」とのことです。

また「フィードフォワード経営」を行うためには先行指標が必要です。ここで用語の定義を書くつもりはありませんが、私なりに言い換えると「先読みしながら…」と表現することができます。著者の表現を借りると、結果管理や行動管理ではなく先考管理ということです。

ただ結果管理とか先考管理などと言われても「何、それって?」となりがちかと思うので、1つ非常にわかりやすい例があったので紹介します。

それは、フィードフォワード経営では、過去の実績データを基にしたシミュレーションで経営計画を立てるのではなく、未来のビジョンから逆算して戦略実行する計画を立てるということ。

実は私が戦略プロセス経営実践会で「戦略とプロセスの明確化」と提唱している内容と共通点が多いのがフィードフォワード経営です。

結局のところ、この本では「フィードフォワード経営を取り入れよう!」という主張を、表現を変えながら繰り返しているわけです。

でも、なぜ終始フィードフォワードの説明ばかりなのかと言うと、それにはちゃんと理由があります。それはフィードフォワード経営を行うための業務システムを著者の会社が販売しているからです。

だから、単にフィードフォワードの意味を繰り返し説明するだけではなく、「過去の延長で経営する社長、未来から逆算する社長」などと対比事例を作って紹介し、さらにはコマツやQBハウスの事例などを通じてフィードフォワードを強調しながら、中小企業の社長に理解してもらおうとしているようです。

ちなみに著者は、1,000円カットで急成長したQBハウスが使っている、待ち時間を知らせてくれる信号機のような三色燈についても「QBハウスを利用しようとしている顧客に対するフィードフォワード情報」と言っています。

待ち時間を知らせてくれるサービスはクリニックなど他にもいろいろな場所で使われていますが、店外から(店に入る前に)わかるという点は私も気に入っています。

ところで、この本の中で面白い着眼点だなと思ったのは、筆者の経営コンサルティングに関するドメインシフトです。筆者曰く、経営コンサルティングは「コンサルタント派遣業」であり、クライアント企業の経営の質を高めたり、業績を上げたりすれば良いのであって、必ずしもコンサルタントを派遣する必要はないとのこと。

だから、筆者の会社では、経営コンサルティングで指導する内容をあらかじめシステムに落とし込んでパッケージ化し、それを提供しているとのこと。そして、人の問題や戦略などの課題については経営コンサルタントがリアルに訪問する合わせ技にする、と説明があります。

この件に関してですが…以前、私は電話コンサルのサービスを提供していました。佐賀、長崎、沖縄などにいる一度も面会したことがない社長さんにコンサルティングをしたことがあります。だから私は経営コンサルティングについて「コンサルタント派遣業」だとは思っていませんでした。

また先考管理を行うパッケージについては他社からも販売されています。もしかしたら他社では顧客サポートや顧客フォローなどと無料で行っている顧客への支援活動と同じようなことを、筆者の会社ではコンサルティングサービスと称し別に料金設定しているのかもしれません。そうだとしたらなかなか上手いなと思いました。

多くの会社では、製品購入後のフォローについては「購入いただいたお客様の要望だから・・・」などと無料で導入先の会社を訪問しています。それは私が深く関わっている介護施設向けのロボット販売の会社でも同じです。

しかし、数少ないですが、中には、「モノの販売」と「活用方法の指導」を分けて料金設定している会社があります。○○研修、○○講習会などと称して「モノの販売」とは別料金を設定しているのです。

筆者の会社に対して「上手いな!」と感じたのは、「モノの販売」をシステム屋としてではなく、コンサルティング会社として提供している点です。だから、本の中に「システム屋であって純粋なコンサルタントではない」などと言われることがあると述べられている通りです。

私も、著者の主張通り、コンサルティングはクライアント企業の経営の質を高めたり、業績を上げたりすれば良いと考えています。だから、コンサルティングの定義にこだわる必要はないし、クライアント企業の要望や支払い能力などによっていろいろな形があって良いと考えています。

そこで私は、クライアント企業が開催する見込み客向けセミナーの講師を務めることがあります。面白いことに、コンサルティングを行うことよりも、見込み客向けセミナーの講師を務める方が感謝されることがあります。

それは、日本ではアドバイス(コンサルティング)のような無形サービスにはなかなか価値を見い出してもらえないからでしょう。1,000~1,500円の手土産を持ってきて「よろしく!」という感覚で相談を希望する人も少なくありません。そんな感じで扱われることもあるのが純粋なコンサルティングです。

ところがセミナー講師を務めると、(経営者だけではなく)見込み客が満足し、次なるアクションに繋がるという「目に見える成果」があるからだと思いますが、コンサルティングよりも感謝されることが少なくないのです。

経営者に何かを指導することよりも、彼らの見込み客を動かすキッカケをつくってあげた方が感謝されやすいということ。

とにかく、純粋なコンサルティングというパーソナルサービスだけを売ろうとする個人コンサルタントの多くは集客面で非常に苦労しています。そういうこともあり、著者のビジネスモデルは面白いと思います。

私は、ロボットを介護現場に導入させる仕事をやってきましたが、最後にこの本を読んで「やはり同じだな」あるいは「全く通りだ!」と感じた点をいくつか紹介します。

  • いきなりテクノロジーを導入するのではなく、業務プロセスの見直しを行った上で導入しなければならない。ちなみに、著者が業務プロセスを行う際には、RAROreduce, abolish, reuse, outsource)を実施するとのこと。
  • 効率化や人の代替を主目的としてテクノロジーの導入や活用では経営的にあまりに意味がなく、戦略的な優位性も継続できない。
  • 一般企業がテクノロジーを戦略的に活かすには、リアルなモノ・コトとヒューマンタッチを融合させる必要がある。
  • 一般企業がテクノロジーを導入し、それによって戦略的優位性を創出するには、ドメインの定義をシフトし、フィードフォワードを取り入れ、限界費用を下げながらリアルなヒューマンタッチをプラスすること。
  • テクノロジーがあるからそれを使って何かやってみよう、と発想したビジネスモデルではなく、長期的かつ戦略的な見通しがあってこそのビジネスモデル。

この本の内容は、私が戦略プロセス経営実践会で提唱している内容に通じるものがあります。次のコラムはこちらから!

以上の通りですが、私は「新しいテクノロジーが出てきたからウチも使ってみよう!」という態度ではなく、長期的かつ戦略的な将来の展開を踏まえた上で、活用方法を検討すべきと考えています。

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