【ビジネス書004】 

2016年12月30日(金)

著者である株式会社ミスミグループ本社取締役会議長の三枝匡氏には本当にお世話になりました。私のミスミ在籍中はもちろん、その後も書籍などを通じて「戦略」を学びました。

社外取締役としてミスミの会議に参加されていた当時から三枝氏の発言には誰もが注目していて、非常に影響力がありました。当時、社員の一人として会議を聴講していた私は三枝氏の話に細心の注意を払いメモを取っていました。多くの社員も同じように必死になって三枝氏から学ぼうとしていました。

その後、社長職に就かれてからは国際事業戦略の会議などで何度もご一緒する機会がありご指導いただきました。夜の7時過ぎに会議が始まり、終了後の10時過ぎから資料の修正をして終了は夜中の2時や3時ということが何度もありました。

また、書の中で紹介されていた人物については、「これは、あいつのことだな!」と思い出し懐かしくなりました。

書に書かれていた『さっきは米国戦略でしたが次は「タコ焼き」ですか?』と事業プレゼンの際に三枝氏から指摘(注意)されたのは当時の私の上司であり、後日、一緒にその上司と食事をした際に笑い話になった内容です。本当に懐かしい限りです。

 

さて、この本については、「三枝氏の自慢本!」という見方をする方がごく一部にいるかもしれませんが、「戦略」について多くのことを学ぶことができます。他人から伝え聞いたに過ぎない大企業の事例(ケース)をヨソ者が知ったかぶって解説している類の書籍とは異なります。

また、自身を売り出そうとする方がよく使う手口ですが、出版を通じた販促本とも異なります。自ら経営者として乗り込み、自ら考えて苦労しながらミスミという企業を改造していく過程について、様々なフレームワークや手法などが紹介されています。

大学の先生などの中には経営戦略をアカデミックな小難しい話にすり替えてしまう方も少なくありませんが、この本に書かれた戦略は非常に理解しやすいものでした。

 

何よりも驚いたのは、三枝氏の主張が10年以上前の社長就任当時からと殆どブレていないことです。書の中では、優れた戦略の要諦について「絞りと集中」「シンプルな目標の提示」「ストーリー性」と氏が主張していますが、氏は社内会議の場でもいつも戦略に関する重要なコンセプトを短く分かりやすいフレーズに変換して繰り返し口にしていました。

「熱き心」「時間軸」「一気通貫」などフレーズがいつかあるのですが、中でも私がよく耳にしたのが「絞りと集中」です。本書の中でも、当時のミスミが「戦略なきよろず屋」の行動をとっていたと指摘されていますが、「絞りと集中」がないまま、あれもこれもとシナジー(相乗効果)がない複数の事業に手を出していたのです。でも、当時はそれがミスミの魅力でもあったのです。

 

ところで、書の中から気に入った文章を下記の通りいくつか紹介しましょう。

  • 経営者の優劣はフレームワークの有無で決まる。フレームワークとは、物事の本質や構造を理解し、わかりやすく説明するための「枠組み」のこと。
  • 改革も戦略も、実行してみないと何が起きるかわからない。だから、実行前は仮説にすぎない。実行して初めて、修正すべきことや、失敗ないしは挫折、中断の憂き目に遭うことが出てくる。
  • 経営リテラシーは、座学で取得した論理を、経営現場で試し、失敗と成功を繰り返すことで高まっていく。経営トップの「戦略創造性」が勝負を分ける時代がきている。慢性的な不振企業では、日ごろから論理的に議論し、数字を重視する気配が弱く、古い社内力学に流されやすい。会社を抜本的に強くするカギは経営リテラシーだ。
  • 戦略を企業トップの道具にしない。トップから組織末端まで、皆が目を外(競合)に向け、皆が共有できるシンプルな「戦略ストーリー」を見つけなければならない。改革者はそれを熱く語り、経営現場に落とし込んでいく。
  • 社員が過度の根回しばかりしている組織は壊さなくてはならない。「戦う組織」への変身を狙い、新組織を注文住宅のようにデザインする。組織という言葉の代わりにビジネスプロセスと呼んでもいい。

聞いた話を紙芝居のごとく解説するケース(事例)の紹介とは異なり三枝氏が自ら手掛けた実話なのとても説得力があります。次のコラムは、こちらから!

他にも紹介したい内容はいろいろあるのですが最後に1つ追加します。それは、まず周囲の動向を見る「横並び志向」、そこから後追いを始める「リスク回避思考」では、革新の切り口は見つからない、ということ。

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