戦略とプロセスを明確化した事業デザイン:
自らに選択肢があることを知りながら「できない」を「できる」に!
【ビジネス書010】
2018年 2月16日(金)
今回はデジタルマーケティングの全体像を説明する本の紹介です。この本には「我々が国内外のMBAで学んできたマーケティングを活用し、デジタルマーケティングの全体像をお見せする」との記載がありますが、従来型マーケティングがどう進化してきたのかという点について説明してくれます。
ちなみに、従来型マーケティングとは、多くのMBAスクールが教えてきたフィリップ・コトラー氏の「マーケティング・マネジメント」の内容です。私はアメリカのMBAスクールで従来型(?)のマーケティングを学びました。
この本のタイトルは「デジタルマーケティングの教科書」となっている通り、確かに教科書のような感じです。主にマーケティングの一般論について書かれています。
マーケティングという学問を学ぶ方を対象にした本であり、デジタル時代に「では一体、何をすべきか?」ということを教えてくれる記載はありません。でも過去に習ったマーケティングが時代の変化とともに陳腐化していることを改めて教えてくれました。
とにかく、この本の目次に従って主なポイントを説明します。
デジタルマーケティングは、「データドリブン(Data-driven)と「オムニチャネル(Omnichannel)の大きく2つに分解できます。
データドリブンとは、消費者理解と消費者へのアプローチを勘や経験ではなく、データに基づいて行なうことです。これはポイントカードの使用とは明らかに異なります。消費者がどういう動線で回遊し、商品を手に取ったかなどをはじめ、購買に至るまでのプロセスを分析するからです。
一方、オムニチャネルは何年か前から新聞や雑誌でよく目にする表現ですね? ECチャネルとリアル店舗をシームレスに統合し、消費者へ購買の場を提供し、一方で消費者購買行動データを取得する場とすることです。
オムニチャネルを実現するためには、従来型マーケティングの担当領域だけでは不十分であり、テクノロジー、サプライチェーン、ロジスティクスまで包含することになります。
デジタルマーケティングは、従来型マーケティングの戦略策定プロセスをいくつかの点で進化させることになるとのこと。著者は、1)環境分析、2)消費者理解、3)セグメンテーション、4)チャネル、5)プロモーションの5つを指摘しています。
まず「環境分析」についてです。この分析でよく知られているものにSWOT(強み、弱み、機会、脅威のチェック)分析があります。従来型マーケティングでは「過去」の変化を重視した上で未来の予測を行っています。
根拠と結論を結ぶ「つなぎ」となる部分が因果関係になるのですが、そんな因果関係の太さを持つ根拠をもとに結論を導き出す方法が従来型でした。
しかし、世の中の変化が大きい場合や連続性がない場合、PEST(政治、経済、社会、技術のチェック)やSWOT分析などは機能しません。そこで、このような場合、未来の定義をした上で環境分析を行うことになります。
未来を定義した上で、現在からみて、どの因果関係が細いのかを明らかにするのです。そして、どういう条件の変更があればその因果関係が太くなるのか? それを考えるのがデジタルマーケティングの環境分析ということです。
2番目に「消費者理解」の進化についてです。ポイントは、従来型のAIDMAでは消費者購買行動を説明することができなくなったという点です。ちなみに、AIDMAは、製品の存在を知り(Attention)、興味を持ち (Interest)、 欲しいと思うようになり(Desire)、記憶して (Memory)、購買行動に至る (Action)、という消費者心理のプロセスを示したフレームワークです。
デジタルマーケティングの購買意思プロセスでは、AIDMAではなく「AISAS」と「ZMOT」が使用されるとのこと。AISASは「広告を見る(Attention)、興味を持つ(Interest)、調べる(Search)、購入する(Action)、共有する(Share)というプロセスです。
私の記憶では、10年以上前からインターネットマーケティングの世界では使われていた表現ですが、調べてみたところ2005年に電通が商標登録済でした。
ZMOTは、Googleが2011年に提唱した購買意思決定プロセスのフレームワークです。これは、まず「Stimulus/Trigger(刺激、課題の発生)」からはじまります。外部からの「刺激」により商品やサービスの認知、興味・関心の喚起が行われます。
消費者は、こういった刺激を受けることで、ホームページなどを通じて様々な情報を得ようとします。これが「Zero Moment of Truth」です。この表現の頭文字を取って「ZMOT」と表記しているようです。
よくわからない表現なのですが、2004年にP&G社が「First Moment of Truth」という概念を提唱したようです。GoogleではFirstの前の段階だから「Zero」と付けたようです。
少し理解しにくい表現ですが、P&Gの独自の調査では「消費者は商品棚を見て、最初の3~7秒でどの商品を買うかを決めている」ということがわかり、商品配置や陳列等が購入商品を選択する決定的な瞬間を左右するとのこと。それで「第一の真実の瞬間(First Moment of Truth)」と呼び始めたそうです。
その後、消費者が実際に使用し、提供価値に満足・不満足となる「Second Moment of Truth(第二の真実の瞬間)」、満足・不満足という評価を意思表示する「Third Moment of Truth」とプロセスが続くそうです。
3番目の「セグメンテーション」の分析手法も変わります。従来型では、市場全体を俯瞰し、それをある軸や切り口で細分化する方法が用いられました。
さまざまな軸や切り口があるのですが、どれを用いても結局のところ全体から「セグメントする」という点で共通しています。この方法では、人を相手にしているにも関わらず、消費者の顔が見えないのです。
一方、デジタルマーケティングでは、「個人」が出発点となります。この点が従来型と大きく異なります。個人の理解がある上で「セグメント」を形成します。しかも、出発点が個人なので、消費者それぞれの顔が見えるようになります。このように、従来型マーケティングとデジタルマーケティングは、セグメンテーションの形成方法が真逆になるのです。
4番目の「チャネル」と5番目の「プロモーション」は従来型から最も進化します。チャネルについては、消費者とチャネルの接点が1つのみという「シングルチャネル」が進化してきました。例えば、リアル店舗とネットなどと複数ある「マルチチャネル」があります。
また、ネット注文した製品をリアル店舗で受け取る「クロスチャネル」もあります。これは複数のチャネルをまたがった購買が可能になることを意味します。そして、それがさらに進化したのがオムニチャネルです。
企業が消費者と接するリアル店舗やネットのチャネルを統合し、チャネルをまたがった購買を可能にし、どのチャネルでも消費者に最適な購買体験を提供することです。
5番目の「プロモーション」については、消費者理解と相まって、真のOne to Oneマーケティングが可能になると著者は主張しています。ユーザーIDに紐づくことでOne to Oneでプロモーションを行なうことができるということです。
これまでのように企業都合のマスのプロモーションではなく、消費者都合のプロモーションを行なうことができるのです。これがまさにデジタルマーケティングの進化の価値となるのです。
マーケティングという概念が生まれてから100年以上が経過しました。その環境変化は4つのステージ(時代)に分けることができるとのことです。1)需要過多の時代、2)供給過多の時代、3)デジタルマーケティング変革期、4)デジタルマーケティング確立期です。
著者は4つのステージ毎に「キープレイヤーは●●である」と主張していますが、どういう意味合いでキープレイヤーという表現を使っているのかよくわかりませんでした。とりあえず本に書かれていた時代(ステージ)別のキープレイヤーについて紹介します。
1番目の「需要過多(もの不足)の時代」のキープレイヤーは広告代理店であったとのこと。もの不足の時代における彼らのマーケティング上の役割は、製品やサービスの存在を、全国津々浦々に知らせること、つまり「認知」が主な役割でした。
2番目の「供給過多(もの余り)時代」のキープレイヤーは外資系コンサルティング会社へと移りました。彼らは従来型のマーケティング戦略立案手法を日本に持ち込み、日本企業のマーケティングを、単なる「流通」と「広告」から、マーケティング戦略へと昇華させました。
企業のマーケティング戦略の相談相手は、マッキンゼーやボストン・コンサルティング・グループのような外資系戦略コンサルティング会社であり、マーケティングの一機能である広告の相談相手が総合広告代理店だったとのことです。
3番目の「デジタルマーケティング変革期」は、2015年以降となります。外資系戦略コンサルティング会社はキープレイヤーから外れていき、彼らに代わるのが、アクセンチュアやIBMといった外資系デジタルコンサルティング会社です。
また著者は、電通や博報堂のような総合広告代理店のデジタル広告領域でも競合し、彼らから覇権を奪うようになるだろうと予想しています。
その理由は次の通りです。
「ビジネス戦略デザイン」「ビジネスプロセスデザイン」があって、それに対する広告(プロモーション)という具合に、事業では上流から下級の流れが存在します。アクセンチュアやIBMが上流から下流へサービス領域を広げていくのに対し、日本の総合広告代理店が下流から上流へサービス領域を広げていくことは相当難易度が高い、との(著者の)判断からです。
近い将来、製造業や流通企業でもデジタルマーケティングが企業内に浸透し、確立すると、デジタルマーケティング変革支援のアクセンチュアやIBMは、その役割をひととおり終えることになるとも指摘しています。
そして、4番目の「デジタルマーケティング確立期」です。20☓☓年のデジタルマーケティング確立期のキープレイヤーは、消費者データ所有企業になるとのことす。優位に立っているということで筆者が社名をあげているのが、Facebook, Amazon, Googleとなります。
最後になりますが、この本の中から非常に納得のいく一文を見つけたので次の通り紹介します。
多くの企業では、分析のデザインがないままデータや分析手法ありきで調査、分析が行われている。その結果、大変な時間とコストをかけているにも関わらず、分析活動自体が目的化され、消費者の理解には至らず、目的を達成できていないことも多い。
20☓☓年のデジタルマーケティング確立期のキープレイヤーは果たしてどのような企業になるのか? 次のコラムはこちらからどうぞ!
いかがでしたでしょうか?
私がアメリカのMBA留学からの帰国後、最初に就職したのがGE。当時は世界時価総額ランキングのトップ。人から崇められる企業でした。
しかし、時代はあっという間に変わりました。Facebook, Amazon, Googleなどが台頭する時代となりました。まさに栄枯盛衰の世ですね?
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