戦略とプロセスを明確化した事業デザイン:
自らに選択肢があることを知りながら「できない」を「できる」に!
【経営と戦略を考える005】
2025年 9月1日(月)
こんにちは、戦略プロセス経営実践会の関口です。
中小企業の経営は、社長や役員だけで抱え込むよりも、社員たちにも「自分も経営の一部を担っている」と感じてもらうことで、組織全体の力を最大限に引き出すことが可能になります。そのためには、一人ひとりが持つ力を活かせる環境づくりが欠かせません。
しかし実際には、逆に社員のやる気を削いでしまった事例を数多く見てきました。例えば、外部人材やコンサルタントの活用です。それが「外部人材活用の落とし穴」です。今回はその実例を交えながら、社員をうまく巻き込むことで経営がどう変わるのかを考えてみたいと思います。
中小企業が、コンサルタントや中小企業診断士などの外部人材を使う際によく目にする失敗は、社員に疎外感を抱かせてしまうことではないでしょうか。
例えば、会社に全く顔を出さず、オンラインを通じて、数字だけをもとに「ああでもない、こうでもない」とアドバイスするケースがあります。それを見た社員の目には「事業について何も知らない外部の輩が報告書に記載された数字だけを見て好き勝手言っている」と映り、不満を募らせることがあります。
さらに厄介なのは、不満を募らせないようにと、経営者がそうした外部人材とこっそりと話し合う場合です。その結果、何を話しているのか分からない不透明さが、不信感をさらに強めます。
もし人事やリストラのようなデリケートな問題が扱われれば、「自分の雇用が、現場を知らないヨソの人間によって左右されている」と感じ、社長への信頼すら失いかねません。
実際に私が関わったある地方企業では、東京在住の元メガバンク出身者を財務や経営のアドバイザーとして迎えていました。しかし来社はなく、月1〜2回のオンラインでの打ち合わせのみ。手足を動かして事業に関わることは一切ないのです。
現場を知らないのに、数字を良くするためか、人事にまで口を出した時には、関係者の不満が爆発しました。これでは「経営者は、現場を何も知らない外部人材の言いなりだ」と思われても仕方ありません。これがまさに「外部人材活用の落とし穴」の典型例です。
では、どうすればよいのでしょうか。
答えは「経営を社員に見せ、関わってもらうこと」です。
いろいろな方法がありますが、例えば、売上や利益の数字だけでなく、意思決定のプロセスを社員に共有することで、「自分たちも経営に参加している」という感覚が芽生えてくるのです。
こうした透明性が一体感を生み、社員の行動は「与えられた仕事をこなす」から「会社を一緒に作る」へと変わっていきます。
この構図を分かりやすく示すのが、市議会の例えです。市議会が一般市民に公開されるのは、住民に「自分の街の運営に関わっている」という実感を持ってもらう目的があります。
議論が非公開であれば、「一部の関係者だけで勝手に決めている」と市民は疎外感を抱くことになります。しかし公開されれば、たとえ自分が直接発言できなくても「見守っている」「チェックしている」という感覚が生まれ、行政への信頼が高まるでしょう。
企業経営も同じではないでしょうか。意思決定の過程を社員に見せるだけで、経営に対する理解と納得感が大きく変わります。私の経験では、社員が希望すれば同席できるオープンな会議を設けるだけでも、組織の空気は驚くほど前向きになりました。
ただし「何でもオープンにすればよい」わけではありません。先に紹介した企業では、チャットツールに頼り過ぎており、隣の席同士でさえチャットで会話する状態に陥っていました。
経営者と外部人材がリストラ計画をチャットでやり取りし、内容がそのまま社内で公開されていたため、後に大きなトラブルが起きたのです。透明性は重要ですが、テーマに応じた公開範囲の線引きは不可欠です。
外部人材を活用する際も、社員との時間共有や、社員の視点を意識した「場づくり」が欠かせません。
遠方の人材でも、たまには訪問し、社長だけでなく一般社員とも時間を過ごすならまだ良いのです。しかし、まったく来社しない人材もいます。そんな人材に頼るよりも、訪問してくれる人材を活用した方がはるかに効果的です。
では、なぜ訪問してくれる人材が有効なのでしょうか。
第一に、社員とも直接やり取りできる機会が増えるため、信頼関係が築きやすくなるからです。信頼があれば、社員も率直な意見を出しやすくなり、改善のアイデアが実行に移りやすくなります。
第二に、同じ空気を共有できるため、社員との目線合わせがスムーズになります。現場を肌で感じることで、机上の理屈だけでは見えない細部に気づき、現実的なアドバイスが可能になります。
第三に、社員の安心感です。「自分たちと同じ場所にいる人」である方が、心理的な受け入れやすさが格段に高くなります。これは、外部人材が社員に“味方”、あるいは、”邪魔者”として認識されるかどうかを左右する大きな要素です。
この視点で考えると、多くの中小企業が顧問税理士を地元から選ぶのは理にかなっていると思います。記帳や決算のように「誰がやっても最終的なアウトプットは同じ」業務であれば、むしろ気軽に相談でき、必要に応じてすぐ訪問してもらえる地元の税理士の方が安心です。
勝てる(新規)事業の戦略とマーケティング
一刻も早く「行き当たりばったり」や「見切り発車」から抜け出し、着実に成果を出したい! そんな経営者のためのレポートです。
私の経験から断言できるのは、社員を巻き込み、経営の透明性を高めることこそが、中小企業の力を最大限に引き出す方法だということです。
外部人材を活用することは大いに結構ですが、社員に疎外感を与えない工夫が不可欠です。そのためには、市議会の公開と同じく「透明性」を意識し、顧問税理士のように距離の近さや信頼関係を活かすことも大切です。
こうした場づくりの工夫が、社員の納得感を高め、経営をスムーズに進める推進力になります。
だからこそ、外部人材の経験や知見と、社員の力を両輪として、経営を前に進める仕組みをぜひ整えていただきたいと思います。