このレポートは独立コンサルタントや中小企業診断士向けとしていますが、コンサル領域への展開を考える税理士や社労士など士業(小規模事業者)の方にとっても有益なヒントを含んでいます。ぜひご活用ください。
「プロローグ」それに「パート1」から「パート8」までの内容は如何でしたか?
こちらのパートはQAセッションです。2つのQAを紹介します。
事業を上手に運営するために最も注意を払うべきポイントは、大きく2つあります。「新規獲得のコスト&時間」と「LTV(顧客の生涯価値)」です。
理想は、「時間を掛けることなく、低コストで新規の顧客を獲得し、LTVの高い顧客を多く持つこと」です。しかもリスクを分散させながら…。
「時間」と書いたのは、時間の経過が「機会損失」につながるからです。新規獲得のコストが低くても、獲得するまでに時間が掛かると「機会損失」になります。
● 全体観:まず何を考えるべきか
はい、いくつかあります。
独立した経営コンサルタントとしてご自身の事業の戦略を検討する際には、売上構成、時間(スケジュール)、リスクの分散、獲得の難易、効率性、LTV、機会損失、運営スタイル、時間軸などについても考える必要があります。
これらについて複合的に考えた上で、あなたにとって「ベストな選択肢」「ベストな可能性」を探ることです。
これから説明する内容は、ご自身の戦略を検討する際に、頭に入れておいた方が良いことです。よく考えながら読んでみてください。
● モデル試算:月90万円(年1,080万円)をどう作るか
例えば、独立したコンサルタントとして、月間の売上90万円の事業を目指すとします。月に90万円の場合、年間売上は1,080万円となり、1,000万円の大台を超えます。
この目標は月に30万円を払ってくれる顧客を3社見つけ出せば達成することができます。30万円X3社=90万円 となるからです。3社であれば各社に対して月1~2回訪問しても最大で6日。これなら打合せの時間(スケジュール)の調整は問題ないでしょう。
● リスク視点:少数高単価の落とし穴
しかし、今月に1社、来月にまた1社と契約終了のタイミングが重なると、あっという間に売上が1/3まで激減します(2/3を失います)。少ない数の顧客に頼ると、1社を失う(1社と何かしらの理由で契約が終わる)と、売上全体が大きくマイナスの影響を受けます。これは「売上構成の面で事業リスクが高い」ということです。
また、月に30万円を払ってくれる顧客を探し出すことは、月に5万円、7万円の契約案件を探し出すことよりも遥かに難しいです。獲得までに時間と費用が掛かります。料金が高いために、1年経っても、2年経っても1件も取れない。問い合わせすらない。このような問題に直面する人も少なくありません。
● 低単価多数モデル:現実の運用負荷
次に、小さな会社を相手に月4万円の契約案件を獲得して事業を組み立てることを想定してみましょう。税理士の顧問契約のような感じです(最近ではfreeeのような会計ソフトやAIの普及もあり、税理士顧問料の低価格化が進んでいます)。
月に90万円以上を売り上げるためには、なんと23社も見つけ出さなければなりません。月1回2時間の訪問でも、23社も同時に抱え込む場合、月1回の訪問調整がとても大変になるはずです。
しかも、遠方の顧客を訪問するための移動に時間が掛かります。距離は大したことなくても、電車が1時間に1本しかない場所にある顧客を訪問する場合は(電車の)待ち時間が長くなります。顧客(訪問先)が遠方にあると、1日に1社の対応が限界になってしまいます。
このように顧客の所在地が分散していると訪問日時(スケジュール)の調整が難しくなります。
しかし、訪問対象の顧客が地元に集中していれば、午前中に1社、午後に2社と時間差で1日に2社、3社…と効率的に訪問することが可能になります。
他にも良い点があります。顧客数が多ければ、1社、2社との契約が終わっても、リスクが分散されているので、売上全体への影響は限定的です。
● 「高単価の方が楽?」という誤解
ところで、「月に90万円以上を得るためには、4万円の契約を23社から獲得する方法よりも、月30万円の契約の案件ならわずか3社の獲得だけで済むので、この方が遥かに楽ではないか?」「こちらの方が簡単ではないだろうか?」と考える人がいます。
一見するとその通りですが、ひとりコンサルタントが中小企業を相手に、月30万円もの契約を獲得するとなると顧客の獲得がかなり難しくなるのが一般的です。料金が高くなればなるほど、対象が一定以上の規模を誇る企業に限られるからです。しかも、集客するための投資が必要になります。
月に4万円の料金であれば、美容院、エステ、小売店舗など、地元の零細事業者でもなんとか工面できる金額です。だから限られた地域(商圏)にフォーカスし、複数(多数)の契約を獲得することが可能です。ところが、月30万円の契約となるとそうは問屋が卸しません。その理由は高額だから。となると、全国に目を向けなければなりません。
●価格比較の現実:公的支援との対比
中小企業が地元の公的機関の経営支援サービスを利用した場合、専門家(と呼ばれる人)に事務所まで来てもらう場合でも負担は1回当たり最大3万円以内で済みます。私が調べた限り、企業側の負担は1回につき1万円程度のケースが多いです。このようなサービスと比べられてしまうと、民間のコンサルティングサービスは「高すぎる!」と一蹴されてしまうのです。
月1回の訪問で30万円。これは一部の大企業には安いコンサルティング料金かもしれませんが、売上10億円未満の中小企業の多くは高いと感じるはずです。そうなると、コンサルタントはターゲットの地域を広げなければなりません。月に30万円と設定するのであれば、対象を全国規模に広げて活動し、「手を挙げてくれる企業」を募らない限り、顧客の獲得が難しくなってしまいます。
● 機会損失:待ち時間のコスト
ちなみに、獲得が難しい月1回の訪問で30万円の案件ばかりを狙い続け、仕事がないまま時間を過ごすことは「機会の損失」につながります。仕事がないまま、売上が0(ゼロ)のまま1年、2年…と時間だけが過ぎていくからです。
月にわずか1回の訪問で30万円の仕事は魅力的かもしれません。しかし、10日間仕事がなければ、その10日間の売上はゼロです。一方、単価が4万円/日の仕事であっても、1日1社を訪問すれば10営業日後には売上40万円に達します。高い単価の案件を狙って仕事がないまま3カ月、半年と時間が経過すれば、生活費だけでもあっという間に100万円、200万円…と使い込んでしまいます。
そこで「これではマズイ!」「なんとかして集客しなければ」と思い、広告に資金を投入し始めるかもしれません。そうすると、今度は1件も獲得できないまま、投入した資金(広告費)までも失ってしまうリスクがあるのです。
このように、売上構成、時間(スケジュール)、リスクの分散、獲得の難易、効率性などをよく理解しておくべきなのです。
● LTV・継続率:どのくらい続く前提か
追加しましょう。
平均すると1社とはどのくらいの期間、契約が続くでしょうか?
3カ月、6カ月、1年? おそらく、小さな企業向けの場合、このような期間になるのでは? 更新しても1年というケースが多いかと思います。月1回開催される経営会議にアドバイザーとして参加し、月額の顧問料が3万円以下であれば、2年以上も続くことも多いようです。
単価が高く、長く続けば顧客の生涯価値(LTV)が高くなります。しかし、単価が高くてもLTVが低ければ、常に新規顧客を獲得し続けなければなりません。
その場合、繰り返し顧客を獲得するための「仕組み」が必要となります。しかも、そのような新規顧客の獲得には一定以上のコストが掛かることが一般的です。
● 時間軸・キャッシュフロー:立ち上がりの谷
また「時間軸」という概念の理解が重要です。なぜなら先に述べた4万円のコンサルのサービスを提供する場合でも、いきなり23社との契約が獲得できないからです。起業した初月に運よく2社と契約できたとしても、売上は8万円にすぎません。生活費の不足分は貯金を取り崩すことになるのでしょうか? また、どのくらいのペースで23社を獲得するのでしょうか? そもそも獲得できるのでしょうか?
こういうことをあらかじめ想定した上でキャシュフローの管理をしなければなりません。
● 運営スタイル:訪問/来訪/オンライン、そして1対N
さらに追加しましょう。これまではすべて顧客先に「訪問すること」を前提にした「1対1」のコンサルティングの話でした。しかし、「原則、オンラインだけ!」という運営スタイルも可能です。それに「1対N(多)」の方法もあります。
2020年以降は、コロナの影響もあり、オンラインだけでもOKというスタイルがかなり定着してきたので、訪問する必要がなくなってきました。私の場合も、訪問しないで支援する企業がメインです。
なお、同じことを皆で学ぶ「勉強会」「研究会」のような場であれば「1対多」の運営スタイルが可能ですが、本来、守秘義務を伴うはずのコンサルティングを「1対多」で行うことはちょっとおかしいのでは? でも、「勉強会」「研修会」などとは表現せずに、「グループコンサルティング」と「〇〇経営塾」などの表現が使われているのです。
このようにグループ型のスタイルで、個人事業主や年間の売上規模1~2億円までの経営者を対象に、効率的に「1対多」で高額講座を運営することも可能です。だだし、顧客企業の事業規模が大きくなると「1対多」の運営は個人コンサルタントの身分として、かなり難しくなります。だから、「1対多」のコンサル(?)については、個人事業主のような個人が主たる対象になるのです。
● まとめ:戦略先行で遠回りを防ぐ
以上、長くなりましたが、これまで述べたことを踏まえた上で、経営コンサルタントとして自分の事業の戦略を検討しましょう。徹底的に検討すれば、遠回りする可能性が低くなります。後に300万円、500万円、1,000万円という大金を失わずに済みます。
遠回りしてしまう人が多いのは、戦略が曖昧なまま「ツールありき」「戦術ありき」の発想になってしまうからです。そうなると、いつまでも試行錯誤が続いてしまいます。
「ブログは書いた方がいいかな?」「やはり出版して名を売って…」などと「ツールありき」「戦術ありき」の発想になるのではなく、先にご自身の事業の戦略をかなり真剣に、少し時間を掛けてでも検討する必要があるのです。その上で、「何をするべきか?」「何を止めるべきか?」を決めましょう。その後の細かいことは「走りながら決めていく」というスタンスでも良いのです。
●追加:上流~下流のどこに、どのように関わるべきか
経営コンサルタントとして事業に関わる際には、「上流」「中流」「下流」のそれぞれで役割が異なります。
まずは上流(戦略策定の段階)があります。ここでは「誰に、どんな価値を提供するのか」「競合とどう棲み分けるのか」「どう利益を出すのか」といった戦略を固めます。売上モデルや価格設定、リスクの取り方を整理し、成果を数値で測れる仕組みをつくることも含まれます。コンサルタントがこの段階に関われば、方向性を誤らずに進める助けとなります。
次に中流です。ここでは、例えば、見込み客との出会いから契約、そしてリピートやファン化に至るまでの流れを設計します。どの段階で資料請求や体験を提示するか、顧客が自然に前進できる導線をどう組むかを考えます。さらに、問い合わせ数や契約率といった数値をもとに検証・改善を行います。
最後に下流(施策やツールの運用段階)です。ここではSNSや広告、セミナー、オンライン配信といった具体的な手段を実行に移すことになります。重要なのは、上流や中流で決めた戦略・プロセスに沿ってツールを選び、運用することです。コンサルタントが関わるなら、施策の運用状況を数値で把握し、改善点を特定して次につなげる役割を担います。
なお、ここで注意すべき点があります。
小さな会社や零細企業に対しては、「あるべき論」を語るだけでは十分に受け入れられないということです。上流や中流の助言をいくら重ねても、現場に人手が足りず、結局「誰がそれをやるのか?」が解決されなければ、直ぐにコンサルタントとしての役目が終ってしまいます。
むしろ、下流の実務──たとえばSNSの運用やチラシの作成、補助金申請の書類整理など──を一緒に進めてくれる存在を求められることが多いのです。横文字のフレームワークを含め、大手や中堅企業向けに通用するコンサルティング手法を、そのまま零細企業に持ち込んでも、あまり歓迎されないのはこのためです。
結論として大切なのは、「上流・中流・下流のどこに、どのように関わるのか」「どこに関わることを期待されているのか」「どこに関われば、相手から価値を見いだしてもらえるのか」を自分の立場や強みに応じて明確にすることです。
戦略策定で力を発揮できる人もいれば、あるいは下流の手足となって施策を一緒に実行することで価値を見いだしてもらえる人もいます。特に小規模事業者を相手にそれなりの料金をチャージする場合には、「あるべき論」だけでなく実務を一緒に動かす姿勢が求められることを理解しておく必要があります。
自分がどの領域に関わると最も貢献度が高いのかを見極め、その役割を意識して関わることが、持続的な成果を実現する鍵になります。
事例から学ぶ集客の知恵
STP、SWOT、USP・・・このような横文字の定義を知り、賢くなったつもりになってはいけません。
本当に集客につながるのは、現場での“ちょっとした工夫”だからです。
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お役に立ちましたでしょうか。
少し複雑に感じられたかもしれませんが、前述の内容をじっくり検討することが重要です。忘れてはならないのは、単価を高く設定すれば顧客獲得のコストも上昇し、対象エリアも広がらざるを得ないということです。
一方で、安価にすれば案件の獲得は容易になります。しかし、数を積み上げなければ十分な売上には届きません。
では、あなたの場合はどのような形が最適でしょうか?
その答えを考えるために、ぜひ次の「QAセッション」もご覧ください。
なお、マンツーマン型コンサルティング『今すぐ改革』にご関心があれば、下記より詳細をご確認ください。