このレポートは独立コンサルタント向けと記載していますが、1人で活動する方だけでなく、1~8名規模の小さな事務所を経営されている税理士・社労士などの士業の方々にも役立つ内容を含んでいます。ぜひご活用ください。
さて、「パート9」から「パート12」までのQAはいかがでしたでしょうか。
この後も再びQAセッションが登場しますが、ここで一旦、通常の「パート」に戻ります。このパートでは、集客に関して特に重要なポイントを取り上げています。
ぜひ腰を据えて読み進め、今後の実践に役立ててください。
独立してコンサル事業を立ち上げた人の多くが最初に直面する大きな壁、それは「集客=顧客獲得」です。
顧客を得るには、潜在顧客との接点をつくり、そこから見込み客 → 購入客 → ファン客へと育てていく流れをつくらなければなりません。ところが、この最初の「接点づくり」でつまずく人がとても多いのです。
だからこそ重要になるのがマーケティングです。マーケティングとは広告を出したりセミナーを開いたりすることではなく、ましてTV出演や出版のことでもありません。本来は「プロセスの設計」そのものです。
ただし、その前に欠かせない前提があります。
これを明確にしていなければ、どんな施策も空回りしてしまいます。
結局のところ、小さくても「ここなら勝てる」と見込んだ市場を定め、そこで潜在顧客と接点を持つことが出発点です。そして、その接点からどのように顧客関係を広げていくか――これが事業デザインの核心なのです。
ここで欠かせないのが「設計図」を描くことです。つまり、マーケティングのプロセスを明確にし、仕組み化することです。実際の事業を進めながらPDCAサイクルを回し、必要に応じて軌道修正を加えていくことが求められます。
逆に言えば、設計図がないまま「ブログを書こう」「出版しよう」「セミナーをやろう」とあれこれ手を出しても、どれも散発的に終わり効果は出ないはず。戦略を土台にした計画 → 行動 → 検証 → 改善という仕組みをつくることが不可欠なのです。
戦略が固まったら、次はそれを実行する「手段」の検討です。この段階で初めて「YouTubeを使うべきか?」「広告を出すべきか?」などの選択が意味を持ちます。
その際に欠かせないのが顧客理解です。顧客は時間とともに変化します。常に顧客目線で事業を考え、顧客が課題を認識し解決していく一連のプロセスを「活動チェーン」として捉える必要があります。
事業において最も大切なのは「顧客への価値」です。コンサルティングというサービスを通じて、顧客にどんな価値を提供できるのか。すべてはそこから始まります。
そこで、具体例として「ある介護施設が装着型ロボットを導入するまでの流れ」を取り上げます。これは私が過去に支援した「機器販売事業者向けのコンサルティング」の経験を踏まえたものであり、あくまで典型的なパターンを示すフィクションですが、「顧客の活動チェーン」を理解するのに役立つでしょう。
● 介護施設での課題と解決策の模索
介護施設の現場では、移乗介助をはじめとする日常業務で腰に負担がかかり、腰痛を訴える職員が後を絶ちませんでした。マッサージ店や整骨院に通う人も多く、なかには「ここでは長く続けられない」と判断して転職してしまう人、さらには介護職そのものから別業界へキャリアチェンジする人も少なくありませんでした。
この深刻な状況を重く見た施設は、さまざまな対策を打ちました。腰痛体操の導入、希望者への腰痛ベルトの貸与、法人負担でマッサージ師を週1回招いて職員に施術を受けさせる取り組みも行いました。
しかし効果は「やらないよりはマシ」という程度で、根本的な解決には至りませんでした。
● 展示会との出会い
そんな折、施設長が県から送られてきたメールで「介護ロボットの展示会」があることを知ります。以前から「何か良いものはないか」「ロボットの普及はどの程度か」と気になっていたこともあり、介護課長とともに展示会に参加しました。
会場で初めて実物を目にしたのが「装着型ロボット」と「非装着型ロボット」でした。過去にリフトを導入したものの使われなくなった経験も踏まえ、施設長と介護課長は次のように判断しました。
その場でメーカー担当者と名刺交換を行い、後日デモを依頼することになりました。
● デモと試用を経て購入へ
数週間後、施設にてデモが実施され、主任クラスの職員6名が試着。「何もないより明らかに負担が軽減される」との感触を得ました。さらに1週間ほど借用し、15名程度の職員に装着体験をしてもらった結果も概ね好評でした。
「これなら現場の負担が軽減されそうだし、月々のレンタル料も支払える」――そう判断した施設長は「まずは2台購入してみよう」と決め、法人理事長に稟議を回しました。
理事長は現場の細部には詳しくなかったものの、職員の腰痛問題が深刻であることは認識しており、過去の対策(腰痛ベルトやマッサージ師の派遣)にも関わってきました。
そこで「多少高額だが、ロボット導入は施設のイメージアップにもつながる」と判断し、数日後に承認。こうして装着型ロボット2台の購入が正式に決定し、契約も済ませて、納品を待つ段階となったのです。
● 購入意思決定までのプロセスをどう捉えるか
いかがでしょうか? 以上が「購入する」と意思決定するまでのプロセス、すなわち顧客の活動チェーンです。一見すると単純に見えますが、実際には「登場人物」「時間」「金」という要素をしっかり検討する必要があります。
例えば登場人物。個人事業主が相手なら、意思決定者は本人だけなので即決が可能です。だからこそ、セミナー会場で「本日申し込みの方に限り…」と背中を押して契約させる演出がよく使われます。しかし、大企業では登場人物が複数存在し、「決める人」と「実行する人」が異なるのが普通です。そのため、意思決定には時間がかかり、個人向けのような即決型の手法は逆効果になります。
次に金銭面。大企業は潤沢な資金を持ち、経営者もサラリーマン社長が多いため、(極端に高額でない限り)値切ることなく「言い値」で通るケースが多いのです。中小企業や個人事業主とは大きな違いです。
このように、顧客の活動チェーンを踏まえてプロセスを設計することが重要です。顧客の動きを見える化し、「どの段階で、どのような提案をすべきか」を検討する必要があります。具体的には、
といった点を、常に顧客目線で考え抜くことです。
● 潜在顧客は「今すぐ客」ではない
例えば、介護施設がロボット導入を検討する場合も、腰痛という課題を認識しつつ「解決策の検討」と「情報入手」を並行して行っています。しかし「水道管が破裂したから今すぐ修理」という緊急性のある案件とは違い、ロボット導入はすぐに動かなくても致命傷にはなりません。経営コンサルの依頼も同様で、緊急度は低く、顧客は自発的に動かず、受動的に情報を受け取る傾向が強いのです。
だからこそ、最初の「キッカケ」をどう作るかが勝負です。「これは検討に値する」と潜在顧客に感じてもらわなければ、情報入手や興味の段階へは進んでくれません。
潜在顧客を見込み客に引き上げるためには、まず数多くの潜在顧客にアプローチする必要があります。ただし、投網を広げすぎるとコストがかかり、PDCAを回せなくなります。出版のように一度きりで費用が大きい施策は要注意です。
そこで私が推奨するのは「業界・業種 ✕ テーマ」での絞り込みです。しかも一つに依存せず、複線的に展開することが望ましいでしょう。
● リード獲得の具体策
マーケティングでは「リードジェネレーション(見込み客創出)」や「マーケティングファネル」といった用語が使われます。要するに「接点をきっかけに、あなたやあなたのサービスに興味を持ち、問い合わせをしてくれる人を生み出すプロセス」です。
例えば、10万人にリーチした結果、80人が問い合わせ、20人が購入したとします。この場合、ファネルを通じて「10万人 → 20人」に絞り込まれたことになります。数字で可視化し、効率を検証することが重要です。
具体的な施策には以下のようなものがあります。
特に経営コンサルタントにとって、セミナーや勉強会は非常に有力な手段の一つです。
● 見込み客開拓は最重要フェーズ
繰り返しますが、見込み客の開拓が集客活動の中で最も重要です。なぜなら、新規顧客を獲得できなければリピートも発生しないからです。リピートは確かに重要ですが、その前に「最初の接点」をどう作るかが成否を分けます。
● 情報過多の中で「認知」される工夫
経営コンサルタントにとって最も重要なのは、ある“きっかけ”を通じて、見込み客にあなたやあなたのサービスの存在に気づいてもらうことです。
これが最も難しいという前提に立ち、「どうすれば顧客を獲得できるのか」を考えなければなりません。気づいてもらわない限り、何も始まらないのです。
私たちは今、情報が溢れすぎて誰も処理しきれない社会に生きています。実際には「処理できない」というより、「目に入らない」と言った方が近いかもしれません。
だからこそ、多数の情報に埋もれず、自社(あなた)の存在を 「認知してもらう」「見つけてもらう」 工夫が必要です。そのためには、見込み客が抱えている悩みや挑戦しようとしている事業との “関連性” を、あなたのサービスと結びつけて気づいてもらうことが欠かせません。
● 「信じてもらう」ことの重要性
そして「この人が良い!」「この人なら間違いない!」と信じてもらうことが重要です。
だからこそ「売上倍増」「利益3倍」「市場でシェアNo.1」などの抽象的な売り出し方では、相手から関連性を見い出してもらうことが非常に難しく、結果として集客の際に相当苦戦するのです。