こちらのページでは、教材『あなたの事業を丸裸にすれば 次なる打ち手が見えてくる』の試し読みができます。「第7章」のイントロダクションと「ポイント1」および「ポイント2」の全文をそのままお伝えしています。
なお、「第7章:設計図(プロセス)なしの事業活動は博打と同じ」は、計15つのポイントから構成されています。
顧客の獲得に関してはまず、潜在顧客と接点(キッカケ)を通じての「出会い」があり、それを機に「潜在顧客」を「見込み客」へと引き上げなければなりません。見込み客→購入客→ファン客と顧客を育成していく必要があります。そこで、重要なのがマーケティングです。あなたの会社が考えなければならないのはマーケティングであり、しかも、マーケティングのプロセスです。それは単なる広告出稿や展示会出展などのイベントではありません。TVに出演することでもありません。「イチバンになれそうだ」「勝てそうだ」と見込んだ市場にいる潜在顧客とどうやって接点(キッカケ)を持ち、あなたの会社のことを知ってもらうかということからスタートし、プロセスを設計していくのです。
この章のタイトルは「設計図(プロセス)なしの事業活動は博打と同じ」ですので、実際に事業活動を通じて顧客を育てていくアプローチを解説します。「お客さんを集める」というマーケティング活動にフォーカスします。
この活動についてはあらかじめ「設計図」を描いておくことが重要です。マーケティング活動のプロセスを明確にして仕組み化するのです。そして、事業を進めながら(走らせながら)PDCAサイクルを回して描いた設計図を軌道修正することです。「設計図」がないままやみくもに展示会へ出展する、あるいは、「補助金」を目当てに国や自治体の事業などに参加するべきではないのです。全てを「戦略ありき」で計画した上でアクションに移し、実績をチェックしながらカイゼンしていく仕組みを構築することです。
さて、最初にやるべきことはビジョンの確認です。第4章でも説明した通り、一般企業(特に中小企業)の経営サイクルは下図のようなピラミッド型で表現されます。
出典:ミスミグループ本社ホームページ
経営サイクルに従ってあなたが最初にやるべきことは「ビジョン」の再確認です。そして、「ビジョン」に照らし合わせて市場で戦っていく(ゲームで勝つ)ための戦略を策定することになります。復習になりますが、「企業理念」は各企業が活動を行うにあたっての根底となる考え方のことです。そして、「ビジョン」は各企業が「企業理念」をベースに活動を行っていく上で描いている将来像のことです。将来に対する挑戦的な目標でもあります。もしあなたの会社で「理念」や「ミッション」が明確になっているのに「ビジョン」がない場合、まずは「ビジョン」の策定を行いましょう。
参考までに、私がお世話になった先述の三枝匡氏が作成したミスミの社会的使命を紹介します。ちなみに、ミスミは田口弘氏というユニークな経営者が創業した会社です。三枝氏は、ミスミに来る前は戦略系の凄腕コンサルタントとして活躍していました。田口氏は招聘した三枝氏に経営権を譲り、氏がその後業績を大きく伸ばしました。戦略を非常に重視する会社なのです。
書いてある内容は一見してすごく立派であるにもかかわらず、イマイチよくわからない抽象的な使命を掲げている法人が世間には少なくありません。ミスミの使命はシンプルながらも非常にわかりやすくなっています。ちなみに、QCTはQuality(品質)、Cost(価格)、Time(時間)を指します。また、【図表10:ミスミグループのミスミ・コンセプト】に示した通り、ミスミでは社会的使命を具現化するためのコンセプトを4つ掲げています。
出典:ミスミグループ本社ホームページ
使命を具現化するためのコンセプトもシンプルでわかりやすいですね。事業コンセプトは世界の製造業を裏方として支え、部品一個から短納期でお届けするということです。戦略コンセプトはお客様が必要とする主要製品を「高品質(Quality)」「低コスト(Cost)」「短納期(Time)」で「作って売る」というビジネスモデルです。各ポイントの頭文字を取って『ミスミQCTモデル』と呼ばれています。三枝氏はミスミに招聘された当時からしきりに「一気通貫」という言葉を使っていましたが、それは開発・生産、販売・流通一体の事業運営ということです。
さて、あなたの事業の戦略を明確にしたら、次に戦略を実行していく手段の検討となります。これについては先にバランススコアカードの手法、中間目標を設定すること、指標(メトリクス)を活用すること、さらには、「制約条件の理論」などを駆使しながら行うことを解説しました。
また、何よりも顧客のことをよく理解していなければなりませんが、顧客は時間の経過とともに変化(成長)していきます。第2章で説明した通りですが、なにかしらのキッカケを通じて顧客との「出会い」があるのですが、どの顧客もいつかは離脱していきます。
とにかく、常に顧客目線でご自身の事業を考え、顧客が課題を認識して解決する…という活動を一連のプロセスとして捉えることが重要です。また、事業で最も重要なことは「顧客への価値」です。価値の提供です。事業の創造は全て顧客への価値提案がベースとなりますから、まずは「顧客の実態」を明らかにした上で「顧客への価値」を検討することがポイントです。
そこで、「顧客の活動チェーン」をよく理解しておくことが重要になります。ここでは「顧客の活動チェーン」を解説するための例として次の通り、ある介護施設が装着型ロボットを購入するまでの流れ(プロセス)を見ていきましょう。以下は多くの介護施設に見られる典型的なパターンです。あくまでフィクションですが、かなりリアルに近いです。
介護施設の現場では移乗介助をはじめ、さまざまな業務で腰に負担が掛かります。とある施設でも腰痛を訴える職員が1人、2人、3人と、探せば何人でも出てくる状態が続いていました。マッサージ店や整骨院に通っている職員も少なくありませんでした。中には「ここでは長く続けられない!」と判断して他の施設へ転職していった人、介護職から別の業界にキャリアチェンジした人が少なくなかったのです。そんな事態を重く見た介護施設ではさまざまな対策を練り、実行してきました。例えば腰痛体操を取り入れました。希望者には腰痛ベルトを貸与しました。また、法人が費用を負担してマッサージ師を週に1回呼び、職員にマッサージを受けてもらったこともありました。しかし、どれも「何もしないよりはマシ!」程度の効果は認められたものの、腰痛に悩む職員は相変わらず多い状態でした。
そこで、施設長が「何か他に良い解決策はないか?」と悩んでいたところ、県から送られてきたメールでロボットの展示会があることを知ったのです。前々から「何かいいモノがあれば?」や「ロボットはどのくらい普及しているのか?」などと気にはなっていたので、物は試しにと介護課長と展示会に参加したのです。展示会場で前から気になっていた移乗介助を支援してくれる「装着型のロボット」と「非装着型のロボット」の実物を初めて目にしたのです。施設長は介護課長と相談した結果、「非装着型を使うためには一定のスペースが必要だし、過去にリフトを導入したが後に使わなくなってしまった!」「しかし、装着型は数年前と比べるとかなりコンパクトになった!」「思ったほど装着には時間が掛からない!」「これならウチの職員の腰痛対策になるのでは?」などと判断したのです。そのように考えながら展示会場内で名刺交換をして、装着型のロボットメーカーの担当者にデモに来てほしい旨を伝えました。そして、数週間後にデモに来てもらう約束まで済ませました。
数週間後のデモ当日は主任クラスの職員など計6人が試着してみました。どの職員も「何も無いよりは装着している方が腰への負担が軽減される」との意見でした。そこで、デモで使ったロボットを借り、約1週間、15人くらいの職員に装着してもらって意見を聞いてみました。そうやって検討した結果、「これなら仕事が楽になりそうだし、月々のレンタル料もなんとか払えそうだ!」との理由から「とりあえず、装着型ロボットを2台購入してみよう!」と決め、法人の理事長に稟議書をまわしました。
理事長は現場のことには精通していませんでしたが、法人内に腰痛に悩まされている職員が多いことを以前からとても気にしていました。腰痛ベルトの使用やマッサージ師の派遣などを目にしており、職員の腰痛問題についてはよく認識していました。そこで、「ちょっと高いけど、ロボットを使うと求人の際、施設の宣伝にもなりそうだし…」と考え、数日後に承認しました。理事長決裁をもらって装着型ロボットを2台購入することになったのです。そして、契約を済ませ、あとは納品日を待つばかり。
いかがでしょうか? 以上が「購入ステージ」における顧客の活動チェーン、つまり「購入する」ことを意思決定するまでのプロセスになります。「買うぞ!」と決めるまでの時間の流れです。説明したストーリーは【図表11:顧客の活動チェーン(購入の意思決定まで)】にまとめてあります。
顧客の目線は「問題認識」→「解決策の検討」→「情報入手」→「興味」→「比較検討」→「意思決定」と移っていったのですが、追加で説明しましょう。
「問題認識」とは「職員の腰痛をなんとかしなくてはならない!」という問題の認識をはじめ、「少しでも職場環境を良くしたい!」という願望も含まれます。「今のままでは、また誰かが辞めていくのではないか?」という危機感もあります。
「解決策の検討」はまさに解決策を検討することですが、過去の反省(リフト導入、腰痛ベルトの支給、マッサージ師の派遣など)を踏まえることもあります。「何か他に良い方法はないのか?」と解決策を検討することです。また、「検討」とは目の前にある何かを比較するだけではなく、「過去」との比較検討も含まれます。それに「検討」とはいうものの、ロボットの導入は「火事が起きた!」「ノロウイルスの患者が出た!」などの事件とは異なり、緊急を要するアクションにはなり得ません。緊急性がないこともあり、顧客は何かのキッカケがないと積極的に動こうとする意識が働かないかもしれません。あくまで日常の業務を行いながらあるキッカケ(例えば、展示会の案内、営業マンからの連絡など)がある場合に限り、検討に動き出そうとするかもしれません。
「情報入手」は「解決策の検討」の延長上にあり、「問題認識」した課題の解決策となるかどうかを判断するためにさまざまな情報を入手することです。そして「情報入手」した結果、「おっ、これなら問題(悩み)を解決してくれるかもしれない!」と判断することで「興味」を示すことになります。そして、興味を示した対象機種が複数あれば、その複数の間で「比較検討」することになります。「比較検討」については「装着型ロボットA」と「装着型ロボットB」などのように目の前の複数機種を同時に比較する方法があります。また、「解決策の検討」と同様に、過去の反省(リフト導入、腰痛ベルトの支給、マッサージ師の派遣など)との比較検討もあります。過去の反省との比較から「これは素晴らしい!」と判断すれば、あえて追加して他の比較対象を探さないかもしれません。
ポイントは顧客の目線が「問題認識」からスタートしており、そのための「解決策」を探しているということです。だから、他社の「装着型のロボット」はもちろんのこと、リフト・スライディングボードなどの他のツール、それにボランティアの人に来てもらう方法までさまざまな手段が比較検討の対象になりうるのです。このような比較検討を経て、「よし、導入しよう!」と「意思決定」することになります。
いかがでしたか? このように顧客の活動チェーンを踏まえた上でプロセスを構築して、顧客の動きを「見える化」させてみると良いでしょう。要は顧客の動きのプロセス化です。そして、活動チェーンに沿って顧客に対してどのような価値を、どのタイミングで、どのように提案すべきかを検討することです。その際、先に説明した「戦略キャンバス」の手法も役立つはずです。顧客の活動チェーンに沿って価値を提供するために、「購入側の課題は何であったのか?」「どのような場面で、どのように検討するのか?」「優先順位はどうやって決めるのか?」などと常に顧客目線で検討してみることです。
第6章の「ポイント1」および「ポイント2」はいかがでしたか?
この章の「ポイント3」以降の内容につきましては、教材を購入された上、ご確認ください。