【ビジネス書008】 

2017年 8月6日(日)

「コトラー マーケティングの未来と日本①」の続きです。お知らせした通り、こちらはコトラー氏が日本の読者のために書き上げたものです。

今回は「ドラッカーやコトラーの非営利団体に対する研究」「日本の都市が成長するために」「今後の日本企業について」「その他」の4つに分けて紹介します。

著者はフリップ・コトラー氏ですが、本には氏と並びマーケティング分野で有名な「近代マネジメントの父」として知られるピーター・ドラッカー氏との関係について書かれています。

 「マーケティングが非営利組織にとってどのように役立つか?」という研究をしたドラッカーは、非営利団体が抱えていた問題点を見抜いていたのそうです。それはミッションや理念が立派でも「マネジメントが不在であった」という一点に尽きるとのこと。

またドラッカーは非営利組織の多くが戦略を軽視していることを嘆いていました。その戦略を構築するためには、改善とイノベーションが不可欠であり、「非営利組織という組織でも、経営的な発想をそのなかに導入することで、彼らが提供するサービスの質を向上させることが必ずできる」と考えていたのです。

ドラッカーと時を同じくして「マーケティングが非営利組織にとってどのように役立つか?」を研究していたコトラーは、非営利組織から「公共部門」に目を移したのです。そこでコトラーは、公共部門が提供するサービスの問題点について述べています。

それは「各機関がいわば独占企業にあたるような存在であり、顧客は選択の余地なく、そのサービスを享受しなければならない」という点です。これについては、私が前々から「競争原理が働かないので殿様商売ではないか?」と常々感じていたことと同じです。

また、公務員に欠如している点を、コトラーは二つ指摘しています。第一に「自分たちがより良いサービスを提供して顧客志向を高めるという考え方」です。第二に「あることに対してイノベーションを起こそうとする意欲」をあげています。

コトラーは、日本の都市に不足しているのはダイバーシティ(多様性)である、と指摘しています。日本には素晴らしい文化がありますが、多様性に対する根強いアレルギーが存在すると言及しています。

「自らと違う他者と交わらずして、それまでに考えつかなかった新しい発想を抱けるだろうか」と疑問を発しています。

また都市の成長に多国籍企業の存在が重要であるとの考えを示しています。「都市が自らの富を成長させようとするとき、見逃してはならない存在の一つが多国籍企業である」と主張し、グローバルな都市で中間層が成長したのは多国籍企業であったと述べています。

政府は市民の貧困を和らげることはできるが、中間層を成長させられるのは、多国籍企業のみであるとのこと。富の源泉は都市に存在するが、その本当の「主権者」は多国籍企業である、との考えを示しています。

多国籍企業を誘致できない都市が考えるべきは「その街にとって独自の価値は何か?」を考え抜くこと。それに、どのような都市でも、街でも、他の都市よりも秀でている分野を有していることの必要性を強調しています。

さらに、この本の最後にある「解説」欄には次のような補足説明があるので紹介します。

「都市は企業のように他の都市と競争している。直接コントロールできなくても、場やルールを整備することで間接的にコントロールできる。だから意思をもって場づくりとルールづくりに取り組むべき」とのこと。

1980年代、日本型の意思決定システムは、ボトムアップ型のそれに数多くの当事者が関与しました。さまざまな可能性を調べて取捨選択を行なう、というものでした。

このプロセスには多くの時間が必要でしたが、ひとたび当事者を納得させる結論を出すことができれば、その後の行動は素早かったのです。当時はこれが強みでした。

しかし、コトラーは「かつての強みが現在の弱みになる、ということに関する真摯な認識が必要である」と主張しています。マーケティング4.0の根幹はデジタル化への対応です。目下、企業が直面しているのは、デジタル・ディスラプション(デジタル時代の創造的破壊)であるとのこと。ディスラプションとはdisruptionと書きますが、崩壊や分裂という意味です。

これは「デジタル化によってこれまで競合とは見なされなかった企業があっという間に台頭し、その業界のリーディング・カンパニーを滅ぼしてしまう」ということです。

日本企業が考えるべきは、「急速に変化する世界にどのくらい素早く対応し、素早く変化できるか」ということであると主張しています。自国や欧米企業だけではなく、韓国、中国、台湾、インドネシア、タイなどアジア諸国の企業の成長に適応し、それらと戦えるだけのレジリエンスと敏捷性があるかが問われているとのこと。

なお、レジリエンスとは「コトラー マーケティングの未来と日本①」にも書きましたが、これは特定の問題や損失に見舞われたとき、そこから復元するための能力です。

 

「伝説の経営者」と称されたゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチはかつて、仕事の効率が悪い10%の社員をつねに解雇しましたが、その決断はトップダウンであり、誰のコンセンサスも得ていなかったようです。

こうした経営手法を採用する経営者が日本でも増えれば、それが日本企業の風土をひっかきまわし、よりリスクをとる風土が醸成される可能性もあるだろう、とコトラーは考えています。

 「日本がより速い成長を望みたいならば、外資の導入に対してもさらに積極的になり、そこで起こりうる競争にもオープンになるべきなのだ」とも指摘しています。

 

 かつてマーケティングとは「製品をつくり終えたあとに考えるべきこと」でした。しかし、今やそれは「何をつくるべきか」ということに対する答えです。

偉大なるマーケターは売り方を知っているだけではなく、売るために何をつくるべきかを理解しています。彼らは顧客と密接につながり、顧客の秘めた願望や不満を察知する。そこから、まだ満たされないニーズや機会を見出しているわけです。

マーケティング3.0、さらにはマーケティング4.0という潮流のなかで、日本企業は顧客に情報を提供し、価値提案を行なう能力を向上させなければならないとのことです。そして顧客の関心を惹きつけ、ロイヤルティを高めるストーリーテリングの腕に、磨きをかけるべきであるとコトラーは主張しています。

 

なお、参考までに、日本が重点的に伸ばすべき産業分野についてもコトラーが述べているので紹介します。まずは最大の力である自動車業界の新時代への適応をあげています。

次に有望だと指摘しているのがロボテックス(産業用以外のロボット学)。またセンシング技術に長けた日本企業にとって有利に働くであろうIoT、それに高齢化が急速に進んでおり老人や介護に関するイノベーションにもニーズがあると指摘しています。

さらにファッション・デザイン、観光などにも注目しています。

最後に、上記に書いた「ドラッカーやコトラーの非営利団体に対する研究」「日本の都市が成長するために」「今後の日本企業について」のいずれにも属しませんが、面白いと思った指摘を次の通り紹介します。

  •  一つのことを突き詰める「垂直志向」よりも、そこにさまざまな視点を持ちこむ「水平志向」が重要であるということです。例えば、シリアルに関して新しい商品を考案することではなく、そのシリアルで他にできることがあるかを考える、ということです。これには「アイスキャンディーにする」「シリアルバーにする」「ヨーグルトの上にシリアルが入ったカップをつける」などが該当します。

 

  • かつてアダム・スミスは、市場は「見えざる手」によって動いている、と語ったのですが、現在の経済は「見える手」によって大きな影響を受けている、とコトラーは嘆いています。現に、アメリカでは、主に二つのグループによって政策が決められているとのこと。一つは巨大な多国籍企業、そしてもう一つはトップ一パーセントの富裕層です。

今回はコトラーの本にも関わらず、ドラッカーの主張も紹介したので、少し紛らわしいと感じられたかもしれません。次のコラムはこちらからどうぞ!

コトラーはいかがでしたでしょうか?

ちなみに、マーケティングの歴史はまだ100年ほどです。1910年代のヘンリー・フォードによる大量生産に、その原点は見い出だせるそうです。

それ以前は「商業」は存在していたのですが、「マーケティング」という概念は存在していなかったそうです。

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